肖像画の仕事に携わり、肖像画を依頼される背景には、皆様のさまざまな人生の思いや節目が介在し、真心から滲み出る愛情や、深い思いやりを垣間見る事となります。肖像画は決して安い出費ではありません。依頼を検討される際、大切なお写真をお預けできる後悔のない業者の選択は必須です。肖像画に関する情報も少なく、さまざまな業者が錯綜する中で、安価と思われたものでも果たして価格に見合った、あるいは価格以上に満足できる肖像画が確実に手元に届くかどうか、当然心配な気持になられると思います。さらに周囲から肖像画の依頼を託された方にとっては大変重大な責任ですし、場合によっては信頼を裏切る事態になりかねません。確かなお客様の目で、しっかりとした選択をされることを願います。
もちろん速やかな対応を心がけております。お電話を頂き、その数時間後には直接お写真等資料持参でお客様がご訪問されることもあれば、こちらからお客様のオフイス等へ直接お伺いさせて頂く事もあります。ご依頼元の会社へ訪問し、会議室に通されると、歴代の会長さんや、社長さんの肖像画が整然と壁に掛けられている事も多く、肖像画にまつわる経緯をお聞きすることで、ご依頼の背景をより深く理解できます。お伺いして初めて分かることが実に沢山あります。時には通常一生縁がないような大手の会社にお伺いすることもあり、当然お話される相手の方が複数の役員のお歴々ということで少々緊張の場面もあります。お伺いした会社の社風というものも各社それぞれで、肖像画を依頼される創業者あるいは社長の方のお人柄を連想させてくれます。
中には肖像画依頼の事実すら口外しない旨の誓約書を取り交わす場合もあります。それは肖像画の雰囲気と会社の企業イメージとの大きな差!?が原因なのかもしれません。あまりそこには触れない事にしましょう。
つい最近(年末も半ば)のことです。お電話を頂きましたご婦人のお母さんが現在癌を患い入院を余儀なくされておられました。緊迫した状況が続いているとのことです。制作期間が最初のお問い合わせ内容でした、大変な介護のご苦労の中で、ご存命されておられるうちに肖像画を本人に見せたいとの思いのこもったお気持ちでした。たまたま他にご依頼いただいた数点の肖像画が納品寸前の状況でした。これはとても良いタイミングでした。早速お写真を送っていただくことで制作期間を2週間つまり年内に定めました。緊急事態です。これこそお応えしなければならないことだと思ったのです。通常は大きさにもよりますが1ヶ月から1.5ヶ月の納期をいただいております。この事態は半分の制作時間です。この場合は速乾性の高い溶剤を少し混ぜて使います。比較的早い時間で表面が乾燥しますが、乾燥しきる手前で色を重ねるといった繰り返し作業をするため、画面から目を離せなくなります。通常はご遠慮させていただきたい作業ですが、このような緊急事態ではお断りできません、快くお引き受けし、現在制作中です。大変な状況ですが少しでも喜んで頂ければと思います。今回のこのような例に限らずご無理と思われることでも、とりあえずお問い合わせ下さい。何か解決策が見つかるものと思います。
肖像画を描くという仕事は、肖像画の芸術性を云々する前に、表情に見えないその方の、奥深く秘めた人間的な年輪を引き出すお手伝いをする作業を提供することだと思っています。そのためには実際にご依頼いただく方々のフィールドに思いっきり飛び込む心構えを、いつも日々の中から養っておかなくてはなりません。ご依頼を検討する方も同様に依頼先を判断!?されます。それは提供する、される側の、人間としての交流から始まります。実際にさまざまに地域で活躍されている肖像画家の方は地域に密着した、地域に根付いた活動をされており、人々の交流の中から社会貢献されております。大変学ぶべき点が多いのです。
お客様は私どもの鏡です。僭越ですが幸いなことにこの年齢になると若いときに比べればはるかに角がとれ、体型に比例するかのように丸みを帯びてきたようです。こちらのアドバイスもお客様にもすんなり受け入れていただくことが多く、我ながらいい年齢になってきたのかなあと思う次第です。また、それだけに確信を持った対応が求められます。
心情としては“人生塞翁が馬”と考え、来るものは拒まず、去るものは追わずと決め自然体で日々“生きる”ことこそが人生の修行と思い、心身ともに頑張っていきたいと考えます。充実した日々の中から沢山の肖像画の制作ご依頼にお応えしていければと願っています。
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(2005年12月20日 我が家の天使“クーにやん”が妻と私の見守る中、天国へ旅立ちました。1987年3月4日生まれ、18歳9ヶ月でした。小さな体でよく頑張りました。幸せをいっぱいもらいました。ありがとう・・・・)